2017年6月11日日曜日

(182) TKAの術後鎮痛 大腿神経ブロックから大腿三角ブロック(femorar triangle block)へ

人工膝関節置換術(TKA)の術後鎮痛として、
長らく硬膜外麻酔が実施されていた。

しかし、
1.左右の選択性がない。
2.効果の確実性に不安が残る。
3.効果を確実にするには麻薬の併用が必要。
(→麻薬の使用はPOVのリスクがup)
4.超音波ガイド下神経ブロックの普及
5.抗凝固薬の使用

などの理由から、
TKAの術後鎮痛のトレンドは、
硬膜外麻酔から神経ブロックに変化してきた。

なかでも、
大腿神経ブロック(+脛骨神経ブロック)は広く行われている。

しかし、
大腿神経ブロック、特に持続ブロックを実施する場合、
大腿四頭筋の筋枝もブロックされるため、
筋力低下による転倒リスクが問題となる。

そのため、
より末梢側でのアプローチである、
内転筋管ブロックが注目された。

しかし、
TKAの術後鎮痛においては、
大腿四頭筋の筋枝のうち、内側広筋への筋枝が重要な役割を果たしているという指摘もあり、
狭義の内転筋管ブロックではTKAの術後鎮痛として不十分である。

内側広筋枝は内転筋管に入る前に分枝し、
内転筋管を通らない場合もあるため、
狭義の内転筋管ブロックでは内側広筋枝をブロックできず、
単なる伏在神経ブロックになってしまうと考えられているからだ。

内転筋管ブロックに関しては、最近のLiSA 2017 Vol.24 No.6 602-5の解説がわかりやすい。

最新の知見では、
もう少しだけ中枢側で、
大腿四頭筋のうち、内側広筋の筋枝はブロックするが、それ以外はブロックしないですむ、
大腿三角ブロック(femorar triangle block)がTKAの術後鎮痛として最も適切なアプローチとして考えられている。

ところで、
TKAにおいて、
整形外科医が膝関節へどのようにapproachするか、
麻酔科医にはあまり知られていない。

ざっくり分けると、
1. medial parapatellar approach
2. midvastus approach
3. subvastus approach
4. anterolateral approach、他
となる。
(今は他にもapproachが多数あるようだ。)

medial parapatellar approachは展開、並びに視野確保が容易ではあるものの、内側広筋の付着部を切開する必要があるため、侵襲が大きく、術後の筋力低下が問題になる。
subvastus approachは内側広筋を温存するようにかわしながら展開していくため、術後の筋力低下が最も少ない利点はあるものの、視野が取りにくいのが難点。
midvastus approachは、parapatellar approachとsubvastus approachの中間みたいな位置付けで、内側広筋への侵襲もそこそこに、しかもある程度の視野も確保できる、そんなapproachという理解か。

結局のところ内側広筋の処理の仕方が問題なようで、
だからこそ術後鎮痛において内側広筋枝のブロックが重要な役割を演じる事につながるのだろう。

今後、さらに術式が改良され、
内側広筋を損傷せずに十分な視野でTKAが実施できるようになれば、
あるいはsubvastus approachで容易にTKAが実施できるようになれば、
もしかしたら内側広筋枝をブロックする必要がない時代が来るかもしれない。


一度、自施設でのapproachを確認してみる必要がある。

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